カスタムキュー職人であるErnie Gutierrez(アーニー・ギュテレス)氏は、ロサンゼルス郊外に住み、名の知れたプレーヤー兼最高級クラスのキュー職人で、その作品には愛娘Gina(ジナ)の名をつけて販売していたが(ジナキュー)、Gutierrez氏の離婚などの個人的な問題により、1973年には完全にキュー作りを止めた。しかし、15年後の1988年には仕事を再開して現在に至っている。
Gutierrez氏の天才的な技術に基づいて作られたキューは、多くのキュー職人の手本として研究されてきた。また、Ginaキューの卓越した性能は既に伝説的な評判を呼んでいる。そして、Gutierrez氏が昔製作した作品(もちろん中古)は、もっぱら、コレクターズアイテムとして取引され、鬼集家やプロプレーヤーに珍重されている。
Gutierrez氏は多趣味で一時はF1のレーシングカーの製作と工業用の特殊機械の設計に没頭していたが、1994年から長く暖めていたアイデアを取り入れてキュー作りを本格的に再開した。
一昔前に仕事の関係でロサンゼルスに住んでいた私は、Gutierrez氏の仕事場で彼が手作りで製作した精密加工用の機械の数々をよく見せてもらった。職人の「手仕事」に特に興味を持っていた私は、これまで一流のキュー職人の仕事場をほとんどくまなく見てまわったが、Gutierrez氏の精密加工機械ほど手の込んだすばらしいものは他のキューメーカーでは見たことがない。それは、量産とは全く関係のない機械で、一つ一つの精密な加工をするうえで、より精密な加工ができるように工夫された機械であった。他では絶対にまねのできない難度CやDの複雑な加工を難なく作品に取り入れてしまうGutierrez氏の秘密がここにあることを思い知らされた。
Gutierrez氏はGeorge Balabushka氏と共に近代キュー作りの基礎を築いた人で、直接間接を問わず、Gutierrez氏の影響を受けていない職人はいないとさえいわれている。